「それは可哀想やわ」妹との30分
ケアマネさんのアドバイスもあって、私の中で決意は固まった。
夜、妹ボスにLINEで施設の部屋の動画を送った。そのあと電話をかけて、30分ほど話した。
「ここに決めようと思ってる」
そう伝えたら、返ってきたのはこの一言やった。
「それは可哀想やわ。お母ちゃんを家に帰らせてあげたい」
分かる。その気持ち、痛いほど分かる。私かって、施設を見学に行ってから何回も悩んだ。悩んで悩んで、それでもこの答えしか出んかった。
「他にあるなら教えて。私も教えてほしい」
そう返したけど、答えは出ないまま、その日の会話は終わった。
妹はその施設が「サービス付き高齢者向け住宅」やということも気になってたみたいで、きちんと介護してくれるんか、何人体制で配置されてるんか、その辺りをやたら気にしてた様子やった。
翌朝6時半、まさかのLINE
次の日の朝6時半、妹からLINEが届いた。
「昨夜はお母ちゃんの事考えて寝れんかった……」
私は「他に方法ある?」と聞いた。妹は「見当たらん」と答えた。
そのくせ、今度は小物のこと、用意するもののこと、光熱費のことを言い出した。「光熱費込みの金額なん?別?それやったら高くない?」とか何とか。要は、他の施設を探して時間稼ぎをしたいんやろなというのが、私にはよう分かった。
せやけど、今まで施設探しは全部私がやってきた。そして何回も振り出しに戻された。「まだ元気やし」「こんな感じのお年寄り、うちのデイサービスにもたくさんおるわ」と濁されて、話は毎回そこで終わってきた。
今回だけは、戦った
せやけど、今回は違った。私は言った。
「そしたら、私もお母ちゃんを見る代わりに、あんたも1週間ちゃんと仕事休んで見てくれる?それやったら、違う方法もあると思うで」
妹は何も言わんかった。
たぶん、自分が実際に見るのとは全然違う話やって、初めて気づいたんやと思う。それまで妹は、私がずっと自宅で母を見続けると思ってた。まさか自分に話を振られるとは、想像してなかったはずやから。
妹は「お母ちゃん帰ってこられへんし、お盆も正月も帰ってこられへんやん」と言ってた。
「仕方ない。外出はできるから、食事には行けるやろ。ほんまに嫌やったら、別のところを見つける選択肢もあるんやから」
そう説得して、ひとまず試しに入居してもらうことで話がついた。
「遠い」って、それ言う?
その流れで、妹はさらに「施設が遠い」とも言い出した。
いやいや、私は自転車で行ったし。片道20分くらいやけど、そんなに遠いと感じたことはなかった。正直、それくらいは妥協せなあかん範囲やと思う。
それに何より引っかかったんは、今の母のショートステイ先が、妹の家から歩いて2分やということ。
歩いて2分。それでも、妹は顔を見に行かへん。
近い、遠いは、妹にとってはあんまり関係ないんちゃうかと、その時はっきり思った。
「そんな気になるなら、見に行っといで」
それでも妹があまりにグダグダと施設のことを気にするもんやから、私はついに言うてしもた。
「そんな気になるなら、見に行っといで」
そう言うたら、返ってきたのがこれ。
「もう決めたんやったら、今さら見に行っても遅いやん」
……いやいや、遅いも何も、自分が納得するために行くんやろ。話が全然噛み合わへん。
そこから「いつが休みなん?来週?来週のいつ?」妹ボスをせかせたが、
いつもより時間に余裕のある返事。例のうんうんうんうんうんのせわしい返事がない。
んっ?こいつは今日休みか?
こっちも痺れを切らして聞いた。
「あんた、こんなゆっくり話ししてるけど、今日は?仕事?」
…「今日は休み」
……早よ言え!今日行ってこい、って話やん。
正直、ほんまに見に行く気あるんかなあ、と半分は疑ってた。せやから、こっちで段取りを組んでやることにした。
「今すぐ電話してアポ取って、見学行っといで。担当の名刺、LINEで送るから」
そう指示したら、妹は素直に電話をかけて、朝9時半にアポを取った。そのまま、ちゃんと行きよった。
何でここまでお膳立てせなあかんのか
正直、複雑な気持ちやった。ここまで段取りを組んでやらな動かへんのか、と。
私は施設を何件も一人で探して、見学もして、条件も聞いて、資料も比較して、それでもなお「他にないん?」と振り出しに戻されてきた。せやのに、妹は自分から見学の一本も入れられへん。
帰ってきてから、LINEが届いた。
「聞いてきた。良かったわ」
それだけ。
何を聞いてきたんかは、正直ようわからん。私は事前に確認しといてほしい事を2件ほど
伝えたんやけど、しかもその時に今メモをとりながら話を聞いてるかと確認した。
そしたら、うんうんうんうんうん。
それやのに、まるッと聞き忘れたらしい。まあ、毎回のことやけど。
前の日のうちに「私、明日休みやから行ってくるわ」って、自分から言えへんもんかなあ、と思ってしまった。
段取りが悪いというか、要領が悪いというか……。うちの妹ながら、つくづくそう思う出来事やった。
せやけど、実際に自分の目で見て、自分の耳で聞いて、それで「良かった」と思えたんやったら、それはそれで一歩前進やと思う。文句は言いたいけど、結果オーライということにしとこか。
思えば、こういうのって性格の差なんやろうなと思う。私は不安があったら、まず動いて確かめな気が済まんタイプ。妹は逆で、不安なまま止まってしまうタイプ。どっちが良い悪いという話やなくて、単純に対処の仕方が違うだけなんやと思う。
せやけど今回ばかりは、その差が、私にとってはずっとしんどかった。一人で全部背負って、決めて、動いて、それでも「他にないん?」と何回も振り出しに戻される。その繰り返しに、正直かなり疲れてた。
それでも妹が自分の足で見学に行って、自分の目で確かめて「良かった」と言うてくれたことは、素直に嬉しかった。文句は言いつつも、これで少しは前を向いて一緒に進めそうな気がしている。
ちなみに妹、その帰りにはスーパーで買い物しとった。
見学から日常に戻るの早すぎるやろと半分呆れて半分感心した。
切り替えだけは早い女や。
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