妹ボス、〜朝から「うんうんうんうんうん」事件〜 ④

介護日記

日曜日の朝。

まだコーヒーも入れていないのに、スマホが鳴った。

妹ボスである。

「もしもし」

「あ、姉ちゃん。母の施設の買い物リストちょうだい。買うやつ確認するから。」

ふむ。

休みの日にまとめて買い出しでもする気だな。

私はそう解釈した。

「ほな、メモしてな」

「うんうんうんうんうん」

……早い。

まだ何も言うてないのに、もう「うんうんうんうんうん」が5連発である。

小忙しいのは伝わってくる。

しかし、これから買い物リストを読み上げる私の身にもなってほしい。

「洗剤、シャンプー、ゴミ箱……」

「うんうんうんうんうん」

つ、次いくで。

「〇〇と、あと……」

「うんうんうんうんうん」

もはや相槌というより、BGMである。

何かのリズムゲームかと思うくらい、安定した「うんうんうんうんうん」。

一通り伝え終わって、私は付け加えた。

「今日買い物行ったら、買った物LINE入れといてな。重複せんように」

すると、電話の向こうの妹ボスの動きが止まった。

「私、今日仕事やで」

ん?

一瞬、時が止まった。

今日仕事なら、今、休みの日にする買い物の話を、なぜ朝から電話してきたのか。

私の頭の中で「?」が量産されていく。

「……今度いつ休みなん?」

「水曜日」

今日は日曜日である。

そして私は先日、火曜日に契約を済ませてから買い物に行く、とちゃんと伝えていたはずだった。

なのに次の瞬間。

電話の向こうから飛んできたのは、

「水曜日やん!!」

なぜか、怒られた。

いや、怒りたいのはこっちである。

「私、火曜日休みやから、契約終わったら買い物行くって前に言うたやん」

もう一度説明する私。

朝から一体、何と戦っているのか。

妹ボスよ。

気づけば、謎の理不尽バトルに巻き込まれている。

日曜日の朝。

テンションだけが、ゴリゴリ削られていく私であった。

そして事件は、これだけでは終わらなかった。

翌日の月曜日。

また妹ボスから電話がかかってきた。

今度は、新しい案件を引っさげて。

「5日の入所の日、お昼どうする?」

……ん?

5日は母が実際に施設へ入る日である。

「お昼どうする?」という話から、母に施設で食事をしてもらうのか、それとも私たちと一緒に外へ出るのか、という話になった。

そして妹ボスが言った。

「お寿司食べに行こう」

いいアイデアである。

……ただ、私には一つ気がかりがあった。

施設に入ったばかりの母を、一度外へ連れ出してしまったら、

「もう家に帰る」

と言い出さないだろうか。

そこが心配だった。

結局、持ち帰りにするか、外食するかは、その日の母の様子を見て決めることにした。

施設側には、

「食事の支度は不要です」

とだけ伝えることにする。

ここまでは、まだ平和な話だった。

妹ボスの「半分の中身」

問題は、ここからである。

妹ボスが繰り出した、本命のアイデア。

「母がどうしても施設を嫌がったら、やっぱり家に帰したらいいと思う。12月まで待ってくれるなら、私、仕事辞めて単発バイトにして、母の面倒半分見るし」

一瞬、感動しかけた。

妹ボスが仕事を辞めてまで、手伝ってくれる気になったのか。

「じゃあ、あんたの家のことは?」

「別に大丈夫やん。昼間見るから」

……昼間。

「いやいや、夜は私かい!!」

そうなる。

下で母と一緒に寝るのは、私である。

夜中に何度もトイレに起きる母を、暗い中で支えるのも私。

ふらついて転ばないように気をつけるのも私。

つまり、一番気を使う時間帯が夜なのだ。

そこをまるっと私に置いていくスタイルの「半分」。

私は妹に言った。

「お母ちゃんが帰ってきて、私が一番心配なんは転倒やねん」

すると妹は、

「お母ちゃんに言っといたらええやん、これが最後やでって」

……。

えっ?

認知症の母に、

「転ばんといてな」

と言って、それで済むと思っているのか。

いや、言うことを聞いてくれるなら、誰も苦労していない。

さらに妹は言った。

「これを最後にしたらええんちゃうん。骨折したらした時や」

…………。

えっ。

「それで最後にしようや、なっ。」

いやいやいや。

その先は?

もし転倒して骨折したら、入院になる。

入院したら、介護の負担がなくなるどころか、手続きや面会、必要な物の準備、病院とのやり取り。

そして退院後のことまで考えなければならない。

もっと忙しくなる。

そう。

私が。

私は「骨折したら、その時考えればいい」とは思えない。

骨折しないように、どうするかを考えている。

転ばないように環境を整える。

夜中にふらつく母を支える。

何か起きる前に、できることをしておく。

それが今、私が考えていることなのだ。

「半分」の意味、ズレてます

妹ボスの言う「半分」と、私の言う「半分」。

どうやら、まだかなり意味が違うらしい。

私が求めているのは、昼間だけ母を見ることではない。

夜も含めて、一緒に背負う「半分」である。

母の隣で一緒に寝てくれる「半分」。

そこがクリアされない限り、私はこのまま施設入所の方向で、静かに話をまとめるつもりでいる。

だって、昼間だけ半分見てもらって、夜は私。

それでは私の負担、ほとんど減っていない。

介護って、

「ちょっと手伝うよ」

と、

「一緒に背負うよ」

では、意味が全然違う。

妹ボスには、まだそのあたりの温度差があるらしい。

とはいえ、朝から「うんうんうんうんうん」に始まり、昼間だけの「半分」に終わる。

こうして私の数日は、またしても妹ボスに振り回されていく。

「笑えたら、今日も大丈夫」

そう思っている。

……ただ最近は、

笑うまでの助走が、だいぶ長くなってきました。

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